つくる人をひろめるⅠ
画商は生業で絵を売るだけではなく、新しい絵を見つけ出す喜びや、その新しい絵を作り出す画家に惚れ込み、その存在を多くの人に知らせたい希望も併せ持っていると思います。その気持ちはパトロンとしての役目もあり、とても共感します。
そのような熱い思いを持たれている幾人かの画廊主人と出会ってお話を聴くことはとても楽しいです。今回その喜びを止めどなく表現されるご主人と出会い、熱く美術を語る姿に元気を頂きました。その画家がどのような思いで制作をされているのか、その絵がどのように生まれているのか、その絵に出会う人たちのエピソードなどなど、本当に嬉しそうに語られるのです。そして、次の展覧会はいかに素晴らしい作品であるかを強く勧められましたので、拝見してきました。
正直、展覧会予告DMを見る限りは、私の今見たい画風ではないかなとあまりピンと来ない印象でした。
しかし、入って正面に飾られた絵を見て、おおーっと一気に心をつかまれました。それは画家の大学卒業制作だそうですから7年前の作品だそうです。大学恩師の諏訪敦さんも覚えておられるとのことが納得します。画家のお気に入りのモデルさんを描かれたそうですが、もしかしたらムンクの妹の絵を意識しているのかもしれません。細部は美しく丁寧に筆を重ねています。


もう一枚、その頃の作品でしょうか、これも、人肌の絵の具の物質性が実に美しく絵としてのマチエルになっています。
そして、現在の絵は、基本的に自画像です。この画家は、先述のモデルか自画像か身の回りの風景しか描かないそうで、その姿勢がまた私の琴線に触れます。自分をずっと描くことはよくわかるし、お気に入りのモデルさんを得ることはとても羨ましいです。


どの自画像も存在感が半端なく、惹きつけられます。
聞くと、ずっと絵を描いているそうで、それは、デッサンと言うかスケッチにも魅惑が溢れています。
その絵筆の運びをつい指先で空なぞりしてしまうほど、まさに造形をしているのです。同席されていた画家の吉村宗浩さんが、「彼女は彫刻をしているようだ」と仰ったので、私は、なるほど、ジャコメッティの要素も感じる、と思いました。
ジャコメッティは空間の奥行きを追求しているので、彼女の色の追究とは少し違うのかも知れませんが、しかし、平面の厚み1mmの中で造形をしていることは同じだと思うのです。
この絵を多くの方に見てほしいと、私も画廊主人の方と同じ思いを持ちました。