「へやをつくる 部屋を描く」 寺林武洋展~LIFE~ @入善町下山芸術の森発電所美術館

 北陸地震で継続も心配されたが、富山での寺林武洋さんの大規模個展は無事に再開されています。

入善町下山芸術の森発電所美術館

 

 それでふと思い出したのは、自分は阪神淡路大震災の2週間後に大阪での個展を控えていて、隣接する神戸に何の援助もしないまま一人よがりの制作をしていた経験です。多くのインフラ及び疾病傷対策の専門の方々やボランティアの人たちが支援に駆け付ける中、私は今まで勉強してきたことの無意味さを嘆き、自分のとっている言動に恥ずかしさを覚えながら、それでも、自分のことだけに徹するという自分の卑怯さを知った時間でした。今回、寺林さんも現地で5か月をかけて会場風景画を制作されていて、もしかしたら私と同じような思いをされながら制作を進めておられるのではないかと思うと、私とは雲泥の差がある程の質の高い作品を生み出される方なので、私のような矮小な気持ちになられないでほしいと願っています。その制作で生み出される作品が、この災害を表しながら、人々にとって良い絵になるのではないかと思うのです。

 以前に大阪のYoshimi Artsで公開制作をしながらの彼の個展にお邪魔をして、いろいろなお話を聞かせてもらっている作家さんなので、今展覧会も、少し遠さを覚えながらも、会期開始後すぐの昨秋に訪れてきました。

 

LIFE展

 

 この会場は、発電所跡の巨大な空間を美術館に改造しているもので、従来、現代アートの巨大なスケール作品を取り扱ってきたのですが、今回、普通の絵画を陳列するだけといっては失礼だが、そのようなことで果たしてあの空間に勝てるのかと心配をしつつハンドルを握って向かいました。大阪の名村造船所跡地のクリエイティブセンター大阪でも時に絵画展を開いておりますが、実力のある作家さんの作品でさえ、あの空間にはなかなか勝てずに小さくなっていたことを覚えると、同じようになっていないかといらぬ心配をしたのです。

 

 

 

 

 しかし、会場に1歩足を踏み入れた瞬間、そのようなことは杞憂なことだと判りました。彼は、絵画の画面構成だけではなく、会場空間構成にも、その力をいかんなく発揮しておられました。「LIFE」と銘打った展覧会は、奇をてらうことなく、また臆することもなく、いつものように彼の日常空間をそのままを会場に持ち込み、いや会場そのものが、彼の人生の今を表していて、素晴らしい展覧会構成でありました。

 もちろん、絵そのものの力は言うまでもありません。そしていつも感心するのですが、あの色は出せない、と・・・。先述した通り、彼の制作をまじかで観たことがあるのですが、何の変哲もない絵の具と油と筆で描いているだけです。しかし、私が同じようにしようにも決して同じ色(質感)は出せないのです。その普通の個性の凄さに、私は彼の価値があると思うのです。描かれた空間の匂いまでもが伝わってくるマチエルは、ぜひ実物を見て感じてほしいと思うのです。


 

 

 

 

  この時は、まだ真っ新な白亜地のキャンパスの仕込み中でしたが、3月には制作作品が仕上がることですので、再度、訪れてみたいです。その時に、今までとはまた違った彼の現在地風景を見ることができるでしょうし、この震災を通して心に変化したであろう、描くことの意味についてのお話しを聴かせてもらいたいと思うのです。

 

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展覧会名:寺林武洋 展 ーLIFEー

会場:入善町 下山芸術の森 発電所美術館
会期:2023年10月21日(土曜日)~2024年3月20日(水曜日・祝日)
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
会期中の休館日:月曜日(2月12日を除く)、11月24日(金曜日)、2月13日(火曜日)

観覧料:一般600円、高校・大学生300円、中学生以下無料

主催:公益財団法人入善町文化振興財団
協力: Yoshimi Arts

※会期中に滞在制作をされています。(今後の滞在制作予定日はHP上に記載中)